飲食開業時の”予想外の出費ベスト3”と対処法を 専門家に聞いてみた
(2016/10/21更新)
飲食店を開業する際、気になるのが「どのくらい資金があれば飲食店を開業できるのか」ということですよね。よく個人で開業する小規模の飲食店の場合は700万円~1200万円程度といわれていますが、本当のところはどうでしょうか。税理士業界初、飲食店独立専門に融資支援を行う税理士の大野氏に、お話しを伺いました。
1984年生まれ。ITA大野税理士事務所 税理士。株式会社CHANGE代表取締役 一般社団法人中小企業税務経営研究協会 理事。飲食店開業支援に特化した独自のビジネスモデルを確立し、税理士業界初の飲食店開業融資支援専門に業務を行っている。著書「繁盛する飲食店が必ずやっている開業資金の調達方法」がある。
開業時の予想外の出費に要注意!
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イレギュラー出費ランキング
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1位 居抜き工事
2位 ガス管工事
3位 人材採用
大野:特に多いのが居抜き工事です。例えば、新たに内装工事するときにダクトが屋上まで付けないとダメだったケースや、カウンターを付けるのに、備え付けの冷蔵庫をそのままにしておくと工事できなかったケースがありますね。
あと、ガス管も実際に工事してみないとわからないことが多いですね。冷蔵庫の話でいうと、工事の間の移管費用や保管費用などが余計にかかってしまうっていう話です。電気工事のケースはもっと大変でしたよ。そもそも基礎工事からやり直しになってしまって…
大野:人の問題ですね。開業前に「一緒にはたらこう」と言ってくれていた人が「やっぱり辞めた」というケース。そうなってくると、代わりの人を雇うまでの間、家賃を払い続けなないといけなくなる上に、オープンできませんからね。
その他にも小さな備品とか。最初に想定していた備品ではなく、「もう少し高級感を出したい」といった、途中の変更も借入金を圧迫する原因の1つです。
イレギュラー出費にどう対応すべきか
大野:飲食店開業に備える唯一の手段は、十分に運転資金を持つしかありません。借入を「悪」だと認識して経営していると、ギリギリの額で設定しようとするんですよ。例えばこちらが1300万円の提案に対して、「1000万円までしか無理…」とか。そういうときに限って基礎工事がやり直しになってしまったケースがありました。300万円あればしなくても済んだ借入金を止める作業までリスクになってしまったんですよ。
皆さん、返済額が上がるから嫌がるんですけど、使わないお金から返済しているからリスクは利息だけですよね、という話をするようにしています。「出た利益から返済していっているので、何も怖くないですよ」って。それより怖いのは借入金がなくなってしまった時のリスク。300万円持っていれば何かあった時、100万円を違うところに充てられますからね。
大野:そうなんですよ。もし、経営成績も悪くて資金がなくなってきた場合、それこそ親族に迷惑をかけるか、銀行にも借入することができなければ消費者金融で、高金利で借りるしかなくなる。そっちのほうが精神的余裕もなくなりますし、物事の判断がぶれると思うんですよ。そうすると、早く回収したいという気持ちが前面に出てしまって、結果価格転嫁でお客さんにも求めてしまうんです。
広告も一緒ですよね。5万円かけた方が、効果があったかもしれないのに、お金がないから3万円にしてしまって結果的にほとんど意味がない。お金があるかないかって本当に重要なところなんです。
まずは最低3か月の運転資金を確保
大野:統計を見ていると、開業半年以上で軌道に乗ったと言われています。だいたい最低3ヶ月分の運転資金で、全体の半数以上が開業半年を超えることができます。統計では半分以上の人が成功しているのに、自分はその半分に入れなかったとなると、「センスがなかったんだ」と諦めもつくんだと思うんですよ。でも2ヶ月分しか運転資金を持っていなかったとしたら、3か月目に軌道に乗ったかもしれない、4か月目に軌道に乗ったかもしれない。そんなチャンスがあったのに閉店してしまうと、「あのときもっとお金を事前に借りていたら成功できたかも」と人生後悔が残るのかな思ってしまいます。
ただ、中には運転資金3ヶ月分が当てはまらないというケースもありますよ。フレンチだと固定費が高いので、簡単に運転資金だけで1000万円になってしまいますね。そういうのを考慮にいれると運転資金の提案は、人によって変えています。最初から顧客リストが大量にあって、オープン以降2ヶ月間満席が取れることが確約できているようなレベルであれば、1ヶ月の運転資金でもいいですね。
“リスケジュール”の概念を持つ
大野:運転資金が大量にあれば、大体半年間は使わないお金を返済することができますから、一般的に借入の返済を止めるという作業が仮に来たときに、リスケジュールするチャンスが生まれます。
大野:そうです。条件変更ですね。一概には言えないですが大体半年間は返済です。半年間ぐらいは返済した上で、リスケジュールを組み立ててください、とよく言われるんですよね。そこで使わない資金が十分にあれば、最悪使わないお金で乗り切れるわけです。逆に言えば十分な運転資金がなければリスケジュールのチャンスすら失ってしまうことにもなりかねません。
飲食店を開業したい方々は、このリスケジュール自体を知らない。その手続きには、経営改善計画を出さなければならないので、原価率を過度に下げたり、人をリストラしたり、先にそこから手を出してしまいがちなんですよ。前向きにリスケジュールすればいいだけの話ですから、何も恥ずかしいことはありません。借入金返済を止めるということはその分追加融資を受けていると変わらないですから。そこから一気に軌道に乗る人もたくさんいますよ。
借入返済を積極的に止めろと言っているわけではありません。
最悪は何かという事をしって経営する事が大事、つまりリスクマネジメントの概念をここではお話させていただきました!
お金があれば赤字でも倒産しない
大野:メインとしてはやっぱり税務と財務の部分でしょうね。税務の部分では、個人事業税や個人住民税は「賦課課税方式」なので市区町村から通知が来るものです。なので、税理士は言わないんですよ。そうすると、あとから「こんなに税金が来る予定じゃなかった…」とかとなってしまうんです。
あとは消費税もそうですよね。だから事前に資金繰りに考慮しています。財務では、先ほど言ったようにリスケジュールの提案や、公庫だけでなく違う銀行に対してのアドバイスをしています。
結局倒産させないという話ですよね。お金があれば赤字でも絶対倒産しないので。
あとは、チラシとかを作って売上アップの提案までをやっていますね。
大野:ほとんどの場合、開業してからお客様と接することが多いですからね。私の場合は開業前から、それこそ飲食店開業する2~3年前から相談にのるお客様もいますよ。これから開業しようかなと思っている時点から、5ヵ年計画をしっかり作っていくんですよ。本当にいろんな要望と出会いますよ。親にも親族からも支援してもらうために親族用のプレゼン資料を作成したり、不動産の保証会社向けの説明資料、飲食店開業後計画書をもっと精度高くじっくり接しています。だから信頼の密度は全く違うと思いますよ。
最初は大変でしたけど、飲食開業専門だと事例がたくさん蓄積されていくんです。今ではだいたい相談される内容がわかっていますから別に怖くないですよ。それでも過去の事例から外れてしまうような相談こそがノウハウだと思っています。怖いというよりむしろ嬉しいネタなんですよね。「こんな切り口がまだあったのか!」とハッとさせられます。だから他の税理士が怖いと思うことに、どんどん挑戦してみたいですね。
- この記事のポイント!
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- 開業の時の運転資金は余分に持とう!
- 十分な運転資金を確保しよう!
- “リスケジュール”の概念を持とう!
- こちらも併せてチェック!
(取材協力:ITA大野税理士事務所/大野 晃)
(編集:創業手帳編集部)