伝説の「もうやんカレー」創業者が語る、飲食店成功の秘訣

イチロー・タモリさんも通う伝説のカレー屋 もうやんカレー代表取締役・辻智太郎氏インタビュー

(2016/08/31更新)

辻氏が20代でオープンした「もうやんカレー」は昼間には長い行列を作り、イチローやタモリさんも通うほどの人気店です。「もうやんカレー」では元マッスルトレーナーだった辻氏の考え方が反映され、徹底的に健康にこだわって作られるカレーが魅力で、他店とは一味も二味も違うカレーが楽しめます。そんな「もうやんカレー」の創業者である辻氏に飲食店を経営する上での秘訣を伺いました。

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辻 智太郎(つじ ともたろう)
1971年・東京都で生まれる。大学卒業後、入社したスポーツ関連の会社の寮でオリジナル「カレー」を開発する。カレーショップ開業のため、退職し、有名店で修業。25歳で独立。新宿に一号店を開業する。現在6店舗を展開し、FC展開も開始している。

試行錯誤の末に生み出された身体にいいカレー

ーもうやんカレーが生まれるきっかけを話してもらえますか?

:もともと学生時代にずっと運動というか格闘技をやっていました。その流れでスポーツジムで器具の販売やプロテインの販売などをアルバイトでやっていたんです。それでそのまま普通のバイトから就職したのですが、そこで寮生活をしていた時に作っていたのがこのカレーなんです。

スポーツ関係の仕事なので何が体にいいとか悪いとか、それをすごい突き詰める食事をしていたんですが、プロテインとかを飲むのはどうかなと思っていました。そこで自然のもので採って、なるべくお金がかからない食事は何がいいかなというのを考えて、どうやって一番効率良く野菜をたくさん摂るか、食べ過ぎずに腸をちゃんと休ませるか、必要な物だけ摂るか、などを勉強していく中で、野菜鍋を作ることにしました。

会社の寮は田園調布だったんですが、近くにスーパー田園っていう高級スーパーがあったんですよ。その時は寮で家賃がなかったので、結構お金を使えたんです。そこで毎日高級食材を値段とかあまり気にしないで買って、鍋にぶち込んでいました。
 
そうしていくうちにスパイスをたくさん入れるようになりました。20年くらい前だとスーパーにはちゃんとスパイス置いてなかったと思うんですが、そこは高級スーパーだけあって昔からちゃんと置いてありました。それを訳も分からず買ってきて訳も分からず入れて、毎日スポーツの仕事なんであからさまに分かるもんですから、とにかく自分の身体で人体実験をしたんですよ、何を食べたらどうなるとか、このスパイス入れたらどうなるとか。

そうして研究して、野菜のごった煮のスパイス鍋というのを作ってるうちに、何故か知らないけど気づいたらスパイスで見た目カレーなんだけどカレーじゃないみたいな不思議な食べ物が出来たんですよ。凄く美味しいし、体に良い、当時まだ20代だったんで、ご飯にかけてモリモリ食べて体動かしていました。寮の皆にも食べてもらったりして、これを食べたら調子がいいとか、体が軽いとか、非常に好評でした。

もともと商売をしたいって気持ちはあったのですが、何をしていいのかわからなかった。業種もバラバラでビデオ屋のフランチャイズだとかコンビニのフランチャイズ、焼肉屋、ガツンと儲けるならパチンコ屋はどうだろうと安易に考えていましたけど、実際にやることは全然見つかってなかったんですよ。そんな中でこれが出来て、これを売ろうかなと思ったんです。それがもうやんカレーの始まりです。

ーもうやんカレーの店内に健康とか漢方とかいろいろ書いてあるんですが、あれは辻さんが体を使う仕事をしてたからなんですね?

:それもありますし、実家が自然食品屋なんですよ。ですから小さい頃からそういうのが目に止まっていましたし、父親から食事は体になるもので、一日のエネルギーだから、添加物、着色料、保存料のような悪いものは食べちゃいけないって教わりました。そういうのがあって、もうやんカレーではお米を五分づきにしたり、スパイスはいい物を使ったり、いい肉や油を使ったりと健康には気を使っています。

ーカレーでオリーブオイルを使ったりと珍しいですよね

:うちはもう全部オリーブオイルを使っていますね。イタリアから輸入しているんですけど、かなり安く仕入れられてるので惜しまずドボドボ使っています。
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移転という逆境もチャンスに変える

ー創業の時は資金はどうされたんですか?

:資金は、最初は貯金なんてほぼゼロでしたから、実家の自然食品屋の支店という形をとって、三菱銀行から融資を受けました。そこから個人事業主に変更して、毎月返済していきました。

ー最初は西新宿の店は再開発するということで移転したのですよね?移転しなければいけない時はどうでしたか?

:一店目はもともと十二社通りにあったんですけど都市開発でどかなきゃいけないっていうことが決まりました。スタッフがいるんで彼らの段取りをする必要があり、移さないといけないと思っていろいろ場所を探したんですが、たまたま一店目の近くで丁度基礎工事をしている場所を見つけたんですよ。そこで大家さんが不動産屋とか行く前に唾つけて、場所を取ったんですが、再開発とのタイミングが合わずに仕方がなく半年くらい二店舗同時に営業することになりました。

最初はお客さんは半々に分かれてしまうけど、まあいいかと思ってたんです、でも実際には意外と半々じゃなくて、7:7や8:8くらいな感じになって、寧ろお客さんは増えたんで逆に良かったです。一店だけの時は混み過ぎて、相席の中にカップルが座るなんてこともあるくらい目茶苦茶な感じだったんですけど、二店舗に増えたことでお客さんがゆとりを持って快適に食べれるようなりました。

ーやっぱり創業当初はかなり働かれていたんですか?

:創業した時は、25歳ということもあって、ずっと店に泊まり込んでいました。予想外にお客さんが来てくれたもんだから、仕込みが追いつかなかったんですよ。カレー用の玉ねぎを炒めるマシンがあるんですが、仕込みの為に夜中ずっと火を点けてるから、火事にならないように見ていなくちゃいけなくて帰れませんでした。

ー飲食店は人を集めるのが結構大変だと思うのですが、人に関してはどうだったのですか?

:当時はインターネットがなかったので、新聞の折込だとか、フロムエーとかそういう媒体で募集をかけたんですが、まあまあ募集も来たのでそれ程は苦労しなかったです。

ただ意外だったのは高齢者の応募が結構あったことです。当時は厨房が出来る人は僕しかいなかったですし、高齢者だと接客が上手いというか、あまり失礼がないからまあいいかなというのもあって、当時はオープニングスタッフとしておじいちゃんやおばあちゃんを採りましたよ。何度かお客様に「お父さん、お母さんですか?」と聞かれました。20年前にはインターネットはありませんし、機械関係や力仕事が出来ない分、細かいことにも気を配ってくれて、凄くいい感じで出来ました。

ー夜のお客様にも対応できるようにメニューを増やしたと聞いたんですが、お客さんをより取り込み、単価をも上げることが目的だったのですか?

:そうですね。夜にメニューがカレーだけだと場所がオフィス街ってこともあって、中々売上が上がらないんですね。お客さんは食べには来るんだけど、結局カレーだけで終わっちゃう人が多かったんです。でもメニューを増やしてからはカレー以外のお客様も増えました。今では店にもよるけどカレーだけ食べて行かれるお客さんは半分くらいで、残りの半分くらいは飲んだりする人ですね。仲間で来ていろんな物を頼んで居酒屋みたいに使う人や貸切パーティーやったりする人なども増えて、客単価も上がりました。

目線は常にお客様に合わせる

ー店内のトロピカルともハワイアンとも違う独特の雰囲気はコンセプトなどがあるのですか?

:よく言われるんですが、特にこれっていうものはありません。店内の雰囲気も店ごとに少しずつ違うんですが、食事している時に居心地がいい空間にするように温度、照明、音楽、椅子やテーブルの座り心地などには気を配っています。特に店内の丸太の椅子には気を使っています。あの椅子は丸太の上に結構いいウレタンを2層入れてその上に合皮をはっているんですけど、高級家具を扱っている知り合いに加工を頼んでいて、中々いい仕上がりになっています。

ーもうやんカレーの経営者として大切にしていることは何ですか?

:商売なんで共通することは多いと思いますが、まずは商売ってお客さんのためにするものですよね。だから僕はいつもお客さん目線に立って考えてというのはあります。どうしても店に入っていると店目線になってしまって、ついついオペレーションが大変だとか考えたりします。けどお客さんにはお店の都合は関係ないですよね。
 
あとは値段もそうですね。いくら旨いものを作っても高かったら誰も買えないし、僕も商売にならないから、適切な値段でないといけない。お客さんのために何ができるかというのはいつも考えています。

どれだけ計画を立て、準備したかが成否を分ける

ーこれから飲食店を始める方にメッセージをお願いします

:ー非常に大事なのは計画性です。特に売れる商品を作ること。ただ自分の趣味でカフェをやろうとする人結構いるんですけど、商売には全然なりません。趣味でなく商売でやろうとするなら、まず売れる商品、負けない商品を作る。それと家賃とのバランスの取れた絶対的な売れる立地に構える。これらが大切です。

また、一人でやるのではなく、二人以上の人でやろうとするのなら、ガラッと心構えを変えること。一人だけなら個人ですが、人を使った時点で組織なんです。一万人でも一人でも同じことなので。それに対する心構えをしておかないと、まず人が育ちません。

だから給与システムもそうですけど、従業員をちゃんと育てて生活をさせてあげるシステムはしっかりとつくらないといけない。僕なんかはノリで始めちゃったので苦労しましたけど、適応能力はあったので、毎日いろんなシステムを変えながらやってました。それができる人だったらいいですけど、もし適応能力があまりないようなら、最初から店のシステムをしっかり計画立ててやるのは必要だと思います。

あと資金はしっかりと準備したほうがいいです。やっぱり飲食店ってお金がかかるんですよね。大体うちにいた者でよく失敗しているのは、お金がないから安い資金で始めようとする場合。そうすると常に妥協して始めるんです。なぜかというと、家から離れて他の所で店をやるとします。そうすると、人間は生きていくだけで20万30万かかってしまうから、もともと資金がないのに、どんどん食つぶしていくんです。次第に物件も何もないって焦ってくる。するとしょうもない場所でしょうもない工事をしてしょうもないことを始めてしまう。そうしてダメになることが多いです。

だから資金の調達に関しては、それなりにきっちりと準備しておかないといけない。勢いでやるならやるで、それなりに勝てると思うポイントが最低3つくらいはないと、結局長続きしないものができちゃうと思います。

他に負けない強みを必ず作る

ー確かにもうやんカレーは他と違うポイントが多いですよね

:普通のカレーだったらそこら辺で買ってきても食べられるけど、うちのカレー作ろうと思ったら1週間2週間かかってしまう。じゃあそれをあなたは作るんですか?2週間かかるんだったら作らない、めんどくさい。じゃあもうやんの所行こうと。商売としてはそういうポイントがないといけません。

もう今時。料理なんてクックパッド見ればそれなりの物ができちゃいますし、ネットで頼めばなんでも自宅に送ってくれます。だから、作るんだったらそんなに簡単にできない、作れない、そこじゃなきゃ食べれない料理を出す。そういうふうにやらないとこれからの飲食は難しいと思います。

ー昔よりも便利になってレベルも上がっていますしね

:例えばチャーハンを出すとして、ただ単に自分が作ったチャーハン旨いからっていうだけでやるのは難しいんじゃないかな。相当旨いチャーハンか、もしくはいい立地で目茶苦茶安いとか。値段と場所と味のバランスが大切だと思います。僕の友達がチャーハン屋やってるんですけど、凄くいい場所にあって安いんですよ。家で作れるような普通のチャーハンなんですけど、場所と値段がいいから昼には行列を作っています。

逆を言うと、僕は毎年山奥にあるきのこ汁屋さんに車を飛ばして食べに行くんですが、そこは普段は行かないような思い切り変な場所にあるんですよ。だけど、山に入って採ってきた、都内では売っていないきのこを使って作るからそこでしか食べられないんです。だから、不便な場所でもわざわざ行ってしまう。繰り返しになりますけど、出すものの魅力や店の立地は重要なので、十分に気を付けてしっかりと計画するようにした方がいいです。

もうやんカレーはアスリートの方々が食べるくらい栄養満点で身体にいいので、起業する前の色々なエネルギー使う時の食事にしてもらえたら嬉しいです。

(取材協力:もうやんカレー代表取締役・辻智太郎氏)(編集:創業手帳編集部)

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